【長編】唇に噛みついて
「あたし……りっちゃんに告白されて、すっごく零に会いたかった。零しか考えられなかった。抱きしめて……いつもみたいに強引にあたしをさらってほしかった」
頭がグルグル回って。
どうにかなりそうだった。
でも……。
「りっちゃんに告白されても、あたしには零だけだって思ってたのに……」
溢れる涙を構わず、あたしは零を睨む。
「いつもはっきり言うくせに、人を振る時ははっきり言えないの!?」
零を見つめるけど、もう涙で分からない。
どんな表情をしてるのか。
どこを見てるのか分からない。
「真寿美ちゃんがいるなら!最初からあたしなんかに近づかないでよ!期待させないでよ!」
そう怒鳴った直後。
突然あたしの腕を零は掴んで引き寄せる。
そして零の胸に頭が触れる。
「……いや!」
触れた瞬間、あたしは咄嗟に零の胸に手を伸ばしそれを拒む。
すると涙でぼやけた視界に、零の顔が見えた。
泣きそうで壊れてしまいそうで…。
胸が痛くなる表情。
その表情を見た瞬間。
あたしの心は揺らいだ。
でも、ギュッと目を瞑って首を振ると零の胸を力一杯押した。
「出てって!」
「聖菜……っ。話、俺の話を……」
あたしの腕を掴んでそれを拒む零は、掠れた声で言う。
でもあたしは横に首を振り続ける。
「嫌!言い訳なんて聞きたくない!」
ドン!と思い切り押す。
すると零は玄関に足を下ろす。
そしてあたしの顔を見つめてきた。
溢れてくる涙を拭わずに零を見つめると、零は上を見上げて微笑んだ。
そして小さく息を吐き、もう一度あたしを見つめる。
「言い訳……か」
「……っ……ふぇ」
泣きながら俯いたあたしを見て零は眉を下げた。