【長編】唇に噛みついて
「今まで好き勝手やってきた俺だもんな。今更何言ったって……言い訳にしか聞こえないよな」
寂しそうにそう呟くと、零は泣きじゃくるあたしを見つめると、そっと近づいてきた。
「きーちゃん……」
掠れた声であたしを呼ぶ。
そして今まで聞いた事がないくらい優しい声で言った。
「俺……不器用できーちゃんを泣かせる事しかできなかった」
そう呟きながら零はあたしを見下ろした。
「次は……俺みたいな意地悪じゃなくて、ちゃんと……優しくしてくれる人を好きになれよ」
「っ……う」
溢れてくる涙を両手で拭う。
「……きーちゃん」
零はそっと眉を下げて微笑んで、あたしに近づくとあたしの前髪をそっと撫でる。
あたしは零を見れずに俯いたままでいると、零は一瞬触れるだけのキスをおでこにした。
「ありがとう……今まで。ホントに感謝してる。……最後まで傷つけて、悪かった」
そう言うと、零は静かにあたしに背を向け。
俯いているあたしの耳に……バタン。と扉が閉まる音が届いた。
その瞬間。
あたしはその場に崩れ落ちた。
「れっい……」
もう終わり。
これで終わり。
ねぇ、零。
あたし……零が大好きだったよ。
軽い奴で初めは嫌いだったけど……。
ホントはいい奴だって分かって好きになった。
意地悪されても、ホントは嫌じゃなかった。
だって好きだったから。
零は意地悪じゃなかったよ。
ちゃんと……優しくもしてくれた。
いつだってあたしの傍にいてくれた。
ホントに好きだった。
大好きで大好きで……。
だから気持ちがいっぱいいっぱいで、うまく言葉にできなかった。
あの時……。
零の夢を聞いた時……。
ちゃんとあたしが自分の気持ちを言葉に表せる事ができたら……。
今、こんな事にならなかったのかな。