【長編】唇に噛みついて


時計を見ると10時を回っていた。


いけない。
さすがにもう帰ろう。


あたしは慌ててバッグに荷物を詰めて、歩き出した。
会社の中ももう真っ暗で、あたしは少し早足で歩いた。


気味悪いなぁ。
早く出たい。
てか、何も出てこないでよぉ?


怖くて仕方なくてあたしは走り出して、会社を出た。
すると……。


「あ!」


ビクゥ!!?


突然聞こえた声にあたしは大きく肩をビクッとさせた。


誰!?


声のする方に顔を向けると、ユラッと動く影。
その影はあたしに近づいて来た。


え!?
何、もしかしておばけ!?
やだやだやだ!!
何で出てくるのよぉ……。


逃げたいけど恐怖で足が動かない。
涙目になってその影から目を逸らせないでいると、月明かりがその影を照らした。


「嫌ー!!出たぁ!!!」


悲鳴を上げた瞬間。


「オレだよ!オレ!」


……え?


キョトンとして顔を上げると、月明かりに照らされた人の顔を見る。
その顔は……。


「りっちゃん!?」


驚いて目を丸くして名前を呼ぶと、りっちゃんは笑顔で言った。


「そうだよオレだよ。」


りっちゃんの顔を再び確認して、あたしはホッとした。


「何だぁ……びっくりしたぁ」


< 253 / 286 >

この作品をシェア

pagetop