【長編】唇に噛みついて
「オレの方がびっくりしたよ」
はは……そうだよね。
叫んじゃったし。
「……ごめん」
そう謝ると、りっちゃんは口を開いた。
「今帰りなの?」
「あ、うん……。残業だったから」
少し照れながらも答えた。
仕事に手がつかなくて残されちゃったなんて……恥ずかしくて言えないから伏せて置こう。
「こんな遅くまで!?大変だなぁ」
りっちゃんは驚いたように目を見開いて独り言のように呟いた。
「りっちゃんは?こんなとこで何してるの?」
そう聞くと、りっちゃんは笑顔で答える。
「あ、オレ?オレはちょっと散歩」
散歩……かぁ。
ここら辺通るんだ。
なんて考えながらボーッとする。
するとりっちゃんは少し頬を赤らめて口を開く。
「なぁんて……それは冗談で。きーの事待ってたんだ」
「え?」
りっちゃんの言葉に顔を上げると、りっちゃんは少し照れくさそうに笑った。
待ってた?
あたしを……?
りっちゃんが?
「どっか誘おうかなぁとか思ってたんだけどさ。まだかまだかって待ってたらこんな時間になっちゃった」
そう言ってりっちゃんは優しく微笑んだ。