【長編】唇に噛みついて

食い違い ― 理人Side ―


⌒⌒Rihito
\/side


きーと須藤が別れた。
それをきーの口から聞いた時。
オレは体に電気が走ったように感じた。


きーがフラれた。
それを聞いた時。
オレはどうにもならない想いがこみ上げてきた。
そしてそれと同時に、須藤への怒りもこみ上げてくる。




次の日。
オレは授業を終えて、職員室へと向かう為廊下を歩く。


教師として失格だと思うけど……。
きーの言葉と涙が忘れられなくて、オレはまともに授業に集中できなかった。
考え込みながら歩いていると、オレは3年の教室から出て来た一際目立つ長身の姿に足を止めた。


……須藤。


心の中で名前を呼ぶと、オレは咄嗟にその背中を追って早足で足を進める。
そして角を曲がりそうになる須藤の背中にオレは慌てて声をかけた。


「須藤!」


するとオレの声に気づき、チラッと視線をこっちへ向けた須藤はすぐに逃げるように歩き出そうとする。
オレは慌てて須藤の腕を掴む。


「待てっ」


そう言って須藤を引き止めると、不機嫌そうに須藤はため息をついた。
そして柔らかそうな髪を掻き、須藤はオレを見下ろした。


「……何ですか?」


何で……。
引き止めたのか、分からない。
だから何て言ったらいいのか分からない。


でも咄嗟に思い浮かんだ言葉を口にした。


「きーと……別れたのか?」


そう聞くと、須藤は一瞬瞳を揺らした。
でもすぐに冷たい目に戻って、目を瞑った。


「……だったら?」


そう言ってスッとオレから視線を逸らす須藤。
その気持ちの入っていない声に、オレの苛立ちは大きくなる。


「きーを、何でフッたんだよ」


< 258 / 286 >

この作品をシェア

pagetop