【長編】唇に噛みついて
オレが入る隙もないくらいに、2人は順調だった筈なのに。
お互い本気だった筈なのに。
「お前の……きーへの気持ちはそんなもんだったのか?」
そう問いかけるけど、須藤は黙ったまま口を開こうとしない。
またその姿に苛々してオレは少し強い口調で言った。
「お前は変わってなかったんだな。やっぱり……力づくでもきーをお前から離すべきだった」
こいつが本気じゃないのは、今までの須藤を見てれば分かってた筈だ。
「オレはもう引いたりしない。お前の気持ちがその程度なら、オレがきーを守る」
「勝手にしろよ」
即答で返ってきた言葉。
その言葉を聞いてオレは少し目を見開いた。
「……え?」
こいつ……今、何て。
「守りたきゃ守れよ。あいつだってきっとそれを望んでる」
「どういう意味だよ。お前……それ本気で言ってんのか?」
視線を合わせずに呟く須藤に問いかけると、須藤は少し掠れた声で言う。
「あんた……さっき俺に、何でフッたんだって言ったよね。それ間違ってるから。フラれたのは俺」
「え?」
フッたのは……きー?
「もう俺の事はいらないんだ。聖菜はあんたを選んだ。それに……もう別れたし。勝手にしなよ。俺にはあんたにとやかく言う資格ないし」
それだけを言うと、須藤はオレに背を向けて歩き出す。
じゃぁ……フラれたのは須藤だったのか?
それじゃ、須藤は今きーの事どう思ってるの?
オレはこんがらがった頭をボーッとさせながら去って行く須藤の背中を見つめ続けた。