【長編】唇に噛みついて
本当の事 ― 真寿美Side ―
⌒⌒Masumi
\/side
それは……。
少し前の事だった。
文化祭を終えて、学校も落ち着きを取り戻した頃。
3時間目を終え、休み時間。
あたしは、1人机に顔を伏せて眠っている零の元へ歩み寄った。
コツンと零の頭を叩いてあたしは口を開いた。
「零、起きなよ。もう休み時間だよ?」
するとゆっくりと顔を上げた零の表情は不機嫌そのものだった。
スッと上がった細めの眉の間の眉間には深い皺。
そして薄めの唇は絵に描くような“へ”の字。
「うっさいなぁ……もう少し寝かせろよ」
そう言って零はまた顔を机に伏せる。
零とあたしは古くからの友人。
いわば幼馴染ってやつ。
昔から女遊びの激しかった零が、唯一手を出してない身近な存在。
つまり……女扱いされてないって訳。
まぁ、いいけどさ。
あたしだって別に恋愛感情ないからさ。
ま、それは置いといて。
あたしは今にも眠ってしまいそうな零の肩を大きく揺らした。
「零ー、次英語だよ?起きなさいよー」
「あぁ、もう!うるさい!」
眉間に皺を寄せた零はバッと起き上がってあたしを睨みつけた。
おぉ、怖。
なんて思いながらも慣れっこのあたしは笑顔で言った。
「零、そんな怖い顔しちゃ駄目じゃん。愛想よくしとかないと、聖菜さんに嫌われちゃうよ?」
眉間に皺を寄せていた零は、“聖菜さん”の名前が出た瞬間。
少し優しい表情になった。
その顔を黙って見ていると、零はフイッと視線を逸らした。
「お前には関係ないだろ」
そんな冷たい言葉とは裏腹に、その優しい表情にこっちまでが嬉しくなってくる。