【長編】唇に噛みついて



前の零を知っているから。
ずっと隣で見てきたから。


不特定多数の女の子と遊んで。
相手が本気になる度に泣かせてきた零。
平気な顔をしてたくさんの女の子を泣かせてきた零が変わったから。


聖菜さんと出会って変わった零が素直に嬉しかった。


かけがえのない人を見つけた零の表情が優しくなったからか……。
前より、零と自然に話せるようになった。



どんなに不器用でも。
未来に絶望しても。
人間不信になっても。
人は、恋をすると丸くなれる……。
どこかの誰かに聞いた事があるけれど、その言葉を今ほんとに信じられる気がした。


今……。
聖菜さんに出会って、変わった零を見て。


あたしも……。
こんな風に幸せになれたら。


そう思って浮かんでくる顔はあの人の顔。


絶対に誰にも言えない恋……。
辛いのは分かってる。
届かないのも分かってる。
でも、好きになってしまった。



九条理人先生……。



爽やかな印象で癒し系。
しっかり者で頼りになる先生。


“憧れ”が“恋”に変わるのにそう時間がかからなかった。



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