【長編】唇に噛みついて
その日の放課後……。
あたりはすっかり暗くなってしまった。
報告書を書いていたから……。
そして書き終えたあたしは職員室の扉の前に立っていた。
コンコン。
ノックをして扉をゆっくりと開けた。
「失礼しまーす」
「お、鼎」
職員室に入ると、こちらを振り返りそう言って微笑む先生の姿が見えた。
ドキッとしながら辺りを見渡すと先生以外に教師の姿はなかった。
……2人きり。
そう意識すると、余計にドキドキして緊張した。
するとそんなあたしの心情なんて知らない先生は笑顔で言う。
「どうしたんだ?こんな時間に」
「あ……」
ハッとしたあたしは先生に近づいて、報告書を差し出す。
「これ、書き終わったんで」
そう言うと差し出された報告書に視線を落とし、先生は目を丸くした。
「え?もう終わったの?」
「はい。早く暇だったんで」
嘘……。
先生に頼まれたからだよ。
先生に会いたかったからだよ?
なんて、届かない言葉。
そう思いながら俯く。
すると……。
ふわ……。
と、温かい手があたしの頭を撫でる。
「え?」
驚いて顔を上げると、優しい顔をした先生があたしの頭を撫でていた。