【長編】唇に噛みついて
一瞬の沈黙……。
でも永遠の様に長く感じた。
すると頭の上にあった先生の手がゆっくりとあたしの頭から離れる。
温かな温もりが消え、あたしは先生の顔を見つめる。
その時先生は、真剣な顔をしていた。
「せ、せんせ……」
先生の真剣な顔を見て、我に返ったあたしは自分の言ってしまった言葉の重大さに気付いた。
すると先生は、またあたしの頭をポンと叩いた。
「……ごめん」
掠れた声。
いつもの明るい声とは違うせつない声。
その声があたしに謝る。
「気持ちは嬉しい……。でも、オレと鼎は生徒と先生だ」
そう言って先生はあたしの顔を覗き込むようにした。
分かってた……。
こう言われる事は……。
でも……。
でもね……。
やっぱり本人に言われると、悲しい。
ポタポタとあたしの目から大きな涙の粒が溢れ出す。
涙は先生の膝の上に染み込んでいく。
声も出さずに泣き出すあたしを見て、先生は一瞬悲しい顔をしてあたしの頭を撫でた。
「それに……オレ。好きな人がいるんだ」
その言葉にまた涙が溢れる。
先生は相変わらず掠れた声で、あたしの頭を撫でる手は少し震えていた。
「相手には好きな人がいて……叶わない恋。オレが入る隙なんてない」
そう言って先生はあたしの頭から手を離した。
そしてあたしの目を真っ直ぐに見て口を開く。
「断っておいてこんな事言うのおかしいと思うけど……。オレも鼎の気持ち分かるんだ。叶わない恋だって頭で分かってても……体が言う事聞かないんだよな。苦しいんだよな」
「……っう」
「だからオレを諦めろ、とは言わない。自分も諦められないから。だけど……いつか、鼎にはオレじゃない人が現れてくれる。それまで……いくらでもオレを好いててくれていいから……早くオレを忘れるんだ」