【長編】唇に噛みついて


真寿美ちゃんがあたしを連れて入ったのは近くのカフェ。
席に着くもお互い口を開く事はなく、重い沈黙が2人を包んだ。


やっぱり……。
言われる事は零の事だよね。
だってそれしかないもんね……。


5分以上は沈黙が続いていて、いい加減この沈黙にも耐えられなくなってあたしから口を開こうとした、次の瞬間。


「どうして……零を振っちゃったんですか?」


「えっ?」


どうしてって……。
それは……。


“零はあなたが好きだからだよ”


本人を目の前に言いづらくてあたしは言葉を飲み込む。
すると真寿美ちゃんは少し眉を下げて……小さく言った。


「……あたしが原因ですか?」


まるで心を読んだように、真を突いてくる言葉に動揺が隠せない。
でもいつまでも黙っているのはどうかと思い、あたしは口を開いた。


「真寿美ちゃんだけじゃない……あたしにも、零にも問題があったから……別れたの」


零は真寿美ちゃんが好きで。
真寿美ちゃんは零が好きで。
あたしはただの邪魔者……だったって話だよ。


また涙が零れそうであたしは俯く。
すると真寿美ちゃんはそんなあたしに言った。


「多分……。聖菜さん、誤解してると思うんで言います」


……誤解?


真寿美ちゃんの言葉にあたしはゆっくりと顔を上げる。
視線の先で真寿美ちゃんは笑顔を作ってあたしを見つめた。


「零に……別れた事聞いて、その理由も聞きました。零があたしの事を好きなんだって」


零はもう真寿美ちゃんに想いを伝えたんだ。
じゃぁ、やっぱり2人は……。


また涙が滲む。


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