【長編】唇に噛みついて
すると真寿美ちゃんははっきりとした口調で言った。
「零はあたしを好きじゃないですよ」
……え?
思いもよらない言葉にあたしはキョトンとした。
だって……。
好きじゃ、ない???
「どういう事?」
待って。
さっぱり分からない。
「だから零はあたしを好きじゃないんです」
でも……。
「あの時零の部屋の前で……真寿美ちゃん泣きながら零に抱きついてた……」
あれって真寿美ちゃんが零を好きだからって泣いてたんじゃないの?
零も好きだから抵抗しなかったんじゃないの?
「あぁ、あれは……あたしが九条先生に告白して失恋して泣いて零の所に行っただけなんです。あたしもいっぱいいっぱいで抱きついちゃっただけで……下心でやった訳じゃないんです」
え……?
「九条って……りっちゃん?」
待って?
真寿美ちゃんの好きな人って、零じゃなくてりっちゃん?
え?
えええ!?
「真寿美ちゃん……りっちゃんが好きなの!?」
あたしは驚きのあまりに席を立ちあがる。
すると真寿美ちゃんは眉を下げて笑う。
「……っはい」
え……。
「嘘、あたしてっきり零の事好きなのかと……」
そうボソッと呟くと真寿美ちゃんはギョッとした顔をする。
「まさか!あいつの事好きな訳ないじゃないですか!あたし男だと思ってないですもん!」