【長編】唇に噛みついて


ちょい待ち……。
あたしはその男じゃない男と付き合ってたんだよ。


なんてツッコミを入れた。


「ほんと好きじゃないですからね!?あたしは先生一筋なんですから!」


大きな声でそう言うと急に悲しそうな顔をする真寿美ちゃん。


「でも……振られちゃいました。“好きな人がいる”って」


好きな人……。
それが自分である事を知っているから。
胸がキュウっと締め付けられた。
何も言えなくて少し視線を下す。
すると真寿美ちゃんは掠れた声で呟いた。


「先生の好きな人って……聖菜さんなんですよね?」


「え……」


こういう時、何て言ったらいいんだろう。
真寿美ちゃんの質問はいつも答えにくいものばかりだ。


「直接は聞いてないけど……分かるんです。そうなんですよね?」


そう聞かれてあたしはただ黙ったまま頷く事しかできなかった。
すると真寿美ちゃんは、笑顔のままハーっと息を吐いて上を見上げた。


「どんな人なんだろうってずっと考えてたけど……。聖菜さんじゃ勝ち目ないなぁ」


「え?」


「だってあの零を変えてくれたすごい人だもん……。おまけに綺麗で……。先生が好きになるのも無理ないです」


「そんな事……ないよ」


だって……。
真寿美ちゃんが零を好きっていうのは勘違いだったけど……。
零は……勘違いなんかじゃないもん。
あたしはすごくなんかない。
だって真寿美ちゃんに負けたんだもん……。


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