【長編】唇に噛みついて
「あたしはすごい人なんかじゃない」
だから真寿美ちゃんに勝てなかった。
「零は……あたしじゃなくて真寿美ちゃんを好きだよ」
真寿美ちゃんが違ったって零は……。
真寿美ちゃんの事が好き。
それは紛れもない事実。
だって……。
好きじゃなきゃ、慰めたりなんかしない。
あの零が……。
優しくする訳ない。
「あれはあたしが幼馴染だからですよ、きっと。女遊びが激しかった頃だって指一本触れられなかったんですよ?意識してないからこそ、抱きつかれても抵抗しなかったんだと思います」
そう言って真寿美ちゃんは困ったように笑う。
「あの後零に怒られました。あん時聖菜さんに見られて誤解されただろって。だから振られちまっただろって」
嘘……。
あたしてっきり、零が真寿美ちゃんの事。
好きなんだと思ってたから。
じゃぁ、零は……。
あたしの事好きでいてくれたの?
これも……勘違いだったの?
真寿美ちゃんの話にあたしは全身の力が抜けていくのが分かった。
放心状態で座っていると、そんなあたしを見て真寿美ちゃんは勢いよく頭を下げた。
「ほんとにごめんなさい!あたしがあんな誤解を招く行動しちゃったから……2人が別れるような原因作ってすいませんでした!」
そう言って頭を下げる真寿美ちゃんの目からは大粒の涙が溢れている。
それを見てあたしはギョッとする。
「確かに!それは1つの原因ではあるけど……勘違いしたあたしも悪い訳だし……泣かないで?ね?」
あたしは慌てて真寿美ちゃんにハンカチを渡した。
そして席に座りなおすと、あたしは真寿美ちゃんに頭を下げた。
「あたしこそ……ごめん」