【長編】唇に噛みついて


やって来たのは……。
まだ子供達がたくさんいる公園だった。
キャーキャーと楽しそうな声が聞こえるなかで、あたしとりっちゃんはベンチに腰掛ける。
そしてあたしは口を開く。


「あのね?…りっちゃん」


「うん」


りっちゃんはあたしを見ずに頷く。
それを見ながらあたしは続ける。


「あたし……」


「オレはやっぱりきーが好きだよ」


「え?」


突然口を開き、あたしの言葉を遮るりっちゃんに驚き、あたしは目を見開く。
そんなあたしの驚いた顔をフッと困ったように笑うりっちゃん。


「ごめんね……。困ってるよね」


そう言ってまた困ったように眉を下げる。


……困る。
ううん、困るとは違う。
あたしがりっちゃんに対して持ってる気持ちは“困る”じゃない。
ただ……戸惑ってるんだ。
まっすぐに気持ちをぶつけてくるから。


「困ってない……。でも、戸惑ってる」


「うん」


「りっちゃんはずっと……男の人っていうか、家族みたいに思ってたから」


「うん」


「だからそんな意識してない人から告白されて……急に意識したから、今まで気持ちが揺れる事もあった」


りっちゃんの笑顔が優しさを知った。
りっちゃんの手の温もりが温かい事も知った。
りっちゃんの強引さも知った。
男の人なんだって、実感してドキッとする事もあった。
でも……。


「でもそれは好きとかじゃなくて、ただ男の人を意識したからなんだと思う」




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