【長編】唇に噛みついて


すると須藤はそんなあたしを見てフッと笑う。


「きーちゃん……」


囁くように名前を呼ぶと、須藤はあたしの前にしゃがみ込んであたしの髪を撫でた。


「……っ」


思わずビクッとしてしまう。


どうしよう……。
すごくドキドキしてる。


何でこいつにこんなにドキドキしてんのよ。
何で……。


須藤の手が頭から頬に下がってくる。
だからあたしは須藤をキッと睨んだ。


「信じられない……っ。好きでもない女にキスできるなんて」


「ん?」


顔を真っ赤になってるのが分かる。


そんな整った顔で、“ん?”って顔されたら……。
誰でも、格好いいって思っちゃうよ。


あたしは恥ずかしくて俯く。


真っ赤な顔見られるの嫌だし。
意識してるって思われるの嫌だし。


すると須藤はあたしの顎をクイッと持ち上げて微笑んだ。


「きーちゃんの唇気に入った♪」


は?


口をあんぐり開けてキョトンとしていると、丁度エレベーターの扉が開いて。
須藤は去って行った。

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