【長編】唇に噛みついて
この気持ちは“恋”の好きじゃない。
りっちゃんにはその好きはきっと芽生えない。
だって……。
「あたしには……零だけだから。だからりっちゃんの気持ちには答えられない」
そう言ってあたしは俯く。
するとりっちゃんは小さく呟いた。
「どうして……あんな平気できーを傷つける須藤を選ぶの?」
りっちゃんは泣きそうな顔であたしを見つめ、そしてあたしの手を握る。
「……りっちゃ」
「オレならきーを傷つけない。泣かせたりしない」
ギュッと……りっちゃんのあたしの手を握る力が強くなる。
そしてその手は熱を帯びていた。
「約束する。絶対に幸せにするって……だから」
そっとりっちゃんの顔が近付いてきてあたしの唇に迫ってくる。
それに気づいてあたしはそっとりっちゃんの胸に手を添えた。
「……ごめんなさい」
そう言ってあたしは顔を背ける。
するとりっちゃんはあたしの目を見つめて悲しそうな顔をする。
「……何で」
りっちゃんの目は微かに揺れて、潤んでいた。
それを見て胸は痛んだけど、あたしはりっちゃんから離れて口を開いた。
「りっちゃんは……どうしてあたしを傷つける零を選ぶの?って聞いたね」
「…………」
「確かにあいつには、泣かされてばっかりだし。嫉妬もさせられるし。不安にもさせられる」
最悪な女好きだし。
ドSだし。
自己中心的だし。
我儘だし。
強引……。
「でもね?それって全部あたしが零を好きだから嫉妬して不安になって泣くんだなって、最近になって分かったの」
全部……。
全部、全部。
零が悪くて起こった事じゃない。
あたしが勝手に嫉妬してるだけ。
あたしが勝手に不安になってるだけ。