【長編】唇に噛みついて
声を堪えて涙を流していると、ゆっくりとりっちゃんの手があたしの頭の上に乗せられた。
それに気づいてあたしは顔を上げると、りっちゃんは眉を下げて微笑んだ。
「ごめん。ちょっと意地悪してみた」
「……ふぇ?」
「ほんとは……きーが校門の前で待ってたの見つけた時から分かってた」
そう言ってりっちゃんはあたしの頭を撫でた。
「あぁオレ、振られるんだって」
「……りっちゃん」
「でもまだ諦めきれなかったから……意地悪しちゃった、ごめんね」
優しく撫でていた手を離すと、りっちゃんはゆっくりと立ち上がった。
そして振りかえってあたしを見下ろす。
「でも、きーのさっきの話聞いて、諦めざるを得なくなった」
りっちゃんは“んー”っと伸びをして笑った。
「ありがとう。……幸せになるんだよ?」
「っ……く、うん……!」
涙が溢れた。
りっちゃんの優しい笑顔に。
りっちゃんの優しい言葉に。
するとりっちゃんは、フッと笑って何も言わずに去って行った。
その背中を見送る余裕は今のあたしにはなくて、俯いたまま涙を流した。
……ありがとう。
りっちゃん……。
ごめんね。
りっちゃん……。