【長編】唇に噛みついて
目が合った瞬間。
あたしの名前を呼んで近づいてくる須藤。
……こっち!来るなぁ!!
心の中であたしは叫んだ。
でもそれは須藤に届く筈なく。
真弓の目の前で立ち止まる。
あたしは真弓の後ろに隠れた。
……無駄なのに。
すると須藤は真弓に向かって言った。
「すいません。そいつ……貸してくれますか?」
真弓の後ろにいるあたしを指差しながら言う須藤。
指差すなよ。人を!!
てか、真弓!
助けて!
今日は飲み会あるから駄目って言って!
「あ、いいよ。どーぞどーぞ♪」
「え?」
グイッと真弓に腕を引かれて、突然の事で抵抗する事なく前に出されてしまったあたし。
すると須藤は満足そうにニコッと笑った。
「ありがと」
「って!真弓!飲み会行くんでしょ!?」
あたしは須藤に背を向けて、眉間に皺を寄せながら真弓に言う。
すると真弓はあたしを見てニコッと微笑む。
「え?そんな約束してないじゃーん」
……えぇ。
「と言う訳で!須藤くん!聖菜よろしくね」
そう言って真弓に背中を押された。
そしてあたしは須藤に腕を掴まれると、真弓は楽しそうに去って行った。
……真弓に裏切られた。
「ね。きーちゃん」
声を後ろからかけられてあたしはバッと須藤の方に振り向く。