【長編】唇に噛みついて
戻ると、真弓があたしを見て口を開いた。
「どうしたの?浮かない顔して」
そう聞かれて、あたしは机に倒れ込むように真弓の隣に座った。
「湿気で髪がぐしゃぐしゃなの……」
ムスッとしながら答えると、あたしの髪に腕を伸ばす。
「まぁ、梅雨だし。しょうがない」
そうなんだけどね?
……はぁ。
「何で雨降ってきた訳!?今朝は晴れてたじゃん!!」
「まぁ、梅雨だし。しょうがない」
……って。
「さっきから同じ事しか言ってないじゃん」
ムスッとしながら真弓を睨むと、真弓は無表情で口を開く。
「他に何て言えばいいのよ」
それもそうなんだけどさ。
「ねぇ真弓。傘持ってない?」
「は?」
「傘!今日晴れててすっかり忘れてたの!」
そう言うと真弓は呆れた顔であたしを見つめた。
「馬鹿じゃないの?普通持ってくるでしょ」
はいはい、あたしはどうせ馬鹿ですよ。
どうせあたしぐらいの馬鹿は、濡れて帰るくらいが丁度いいですよーだ。
ムーッとしながら真弓から視線を逸らすと、真弓はため息をついた。
「この前忘れてった傘あるから、それ使いな」
「え?」