【長編】唇に噛みついて


溢れてくる涙を拭っていると、須藤はいきなりあたしを抱しめた。


「ちょっ!」


驚いて慌てて離れようとしたけど、力が強すぎて離れられない。
すると須藤はあたしの耳元で囁く。


「……きーちゃん、温かい」


そう言って須藤は、あたしの頭に頬をすり寄せる。


トクントクンって須藤の心臓の音が聞こえてくる。
それに比べて……あたしは。


「きーちゃんドキドキいいすぎ」


そう言って須藤はニッと笑う。
その顔も、ムカつくくらい格好よくて……。
あたしは顔が熱くなる。


「いきなり抱きついてくるからでしょ!」


もう優しいのか、意地悪なのか分かんない!
余裕ありすぎてムカつくわ!!


そう言って顔を逸らして離れようとするけど、須藤はそんなあたしの腕を掴んで引き寄せる。


「……俺から離れんなよ」


ドキ……。
ってあたしは何でドキッとしてんのよ!


「っつぅ~……」


真っ赤になってるのは自分でも分かってる。
それくらい顔が熱い。


するとあたしの顔を見下ろして、須藤は微笑む。


「きーちゃん顔真っ赤」


「っうっさい!」


あたしはバッと須藤の胸を押して離れると、歩き出す。
するとその後をニコニコしながら須藤がくっついてくる。


あたしは赤い顔を隠しながら、真弓から借りた傘を開くと視線を感じる。


…………。


その視線に気づかないフリをしていたけど、耐えられなくなったあたしは須藤を見上げる。


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