【長編】唇に噛みついて


ッドキン!!


「べ、別に……お礼言われる事してないし」


真っ赤な顔を見られないようにあたしは歩き出した。
そしてエレベーターに乗り込んだ時、後ろから声をかけられる。


「聖菜!」


「え?」


扉が閉まる瞬間……。
すごーく優しい顔の須藤が。


「おやすみ」


そう言った。


「……おやすみ」


そう平然を装って言った。
その瞬間、扉が閉まって……あたしは狭いエレベーターに1人になる。


「……っ」


一気に体の力が抜けてあたしはその場に座り込んだ。


だってあんな優しい笑顔するから。
ちょっと驚いただけよ!
別に……好きとかじゃないわよ。
そうよ……。
驚いただけ。


「落ち着け、あたし……」


そう胸に言い聞かせた。


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