【長編】唇に噛みついて


ピンポーン。


あたしは、須藤の部屋の前でインターホンを鳴らす。
でも一向に出てくる気配がなくて、何となくドアノブに手をかけてみると……。


ガチャ。
って、開いたし!!
全く物騒にも程があるわ。


無防備過ぎる須藤に、あたしは呆れながら部屋に入る。


「須藤~?入るよ?」


ゆっくりと入っていくと、あたしの部屋とはまた違った雰囲気。


まぁ、性別が違うから違うのは当然なんだろうけど。
黒を基調とした落ち着いた感じの部屋。


……へぇ、結構綺麗にしてるんだ。
てか、物がないって言ったほうがいい?


「須藤?」


部屋の置くに入って行くと、あたしはベッドに横たわる須藤を見つけた。


……え?


足早に近づくと、須藤の顔が見えた。


「す、どう?」


声をかけてみるけど、返事はなくて。
戸惑いながらも近づいてよく須藤の顔を見る。


……寝てる?


目を瞑っていて寝ている事に気づいたけど、でも須藤の整った顔は少し歪んで見える。
スッと上がった細い眉の中央の眉間には皺が寄っていて。
息遣いも荒い。
細く長い首には汗が滲んでいる。


もしかして……。


とっさにおでこに手を当てると、熱い……。


風邪引いた?
昨日……雨の中にずっといたから。


そう思うと、胸がキュッと締め付けられる。


「とりあえず……冷やさないと」


あたしは立ち上がって、洗面所へ向かった。


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