【長編】唇に噛みついて
須藤の部屋に入ったのはもちろん初めてだから、何がどこにあるのかさっぱり分からなかったけど、ようやく見つけたタオルを水で湿らせてそれを須藤のおでこに乗せてあげた。
そして部屋をあさって、何とか体温計を見つけると須藤の熱を測る。
「え、39度3分?」
すごい熱……。
あたしは慌てて見つけた救急箱をあさるけど。
何でこんなに物がないんだろう。
冷えピタも。
薬もないじゃん。
「……ふぅ」
ため息をついて、あたしは須藤の顔を覗きこむ。
ホントムカつくくらい格好いい。
眠っている顔は、無防備でどこか幼い印象を受ける。
……須藤ってこういう顔もするんだな。
いつも無表情でよく分かんないけど。
「ん……」
ボーっと寝顔を眺めていると、ゆっくりとあたしの方に須藤が寝返りを打つ。
ぶつかりそうになって慌てて少し離れようとしたけど。
その瞬間、須藤の手があたしの手に伸びてきた。
「……聖菜」
え?
キュッと握られる手と、寝言であたしの名前が出てきて、あたしは目を見開く。
あたしの手を握る須藤の大きな手が熱で熱い。
「辛そうだな……」
ボソッと呟くと、またキュッと手を握られる。
ドキドキする。
自分でもびっくりするくらい胸がキューッとなって。
……ずっと繋いでたい。
なんて一瞬思ってしまった。
ってあたし、何考えてるんだろう。
我に返ったあたしはゆっくりと手を離して、立ち上がった。