【長編】唇に噛みついて


キッチンに向かって冷蔵庫を見るけど。
やっぱり何もない。


「仕方ない。買い物行ってくるか」


ため息をつきながら、あたしは一度自分の部屋に戻って財布を手に取ると、部屋を出た。
そして薬と冷えピタ。
それからとりあえず、スポーツ飲料とみかんの缶詰と食べられそうな物を適当に買って、須藤の部屋へ戻った。


部屋の中に入ると、須藤はまだ眠っていた。
でもさっきよりは、少し表情が和らいだ気がする。


あたしは須藤のおでこに乗っているタオルを取って、洗面所に向かうとぬるま湯でタオルを温める。
そして須藤の元に戻って、汗を拭いてあげた。
その後に買ってきた冷えピタをおでこに貼り付けて、また体温計で熱を測った。


「38度7分……ちょっと下がった」


寝顔を眺めながらあたしは須藤の髪に目が止まった。


すごいサラサラ。
全然痛んでない。


そっと髪の毛に触れると、引っ掛かる事なくスーッと指が通る。


「ったく、こいつどんなシャンプー使ってんのよ」


ムッとしつつ、髪を撫でた。
その後部屋を見渡してみると、須藤の私物らしきものしかない。


……須藤って一人暮らしなのかな。
両親とは別に暮らしてるのかな。
高校生なのに……しっかりしてるな。


そう考えていると、


「ん……」


うっすら須藤が目を開けた。


「あ……」


それに気づいて顔を覗きこむと、須藤はゆっくりと目を開く。
熱のせいか、ボーっとしている。


「きー、ちゃん……?」


あたしと目が合って、少し驚いた表情をしている。


「何で……?」


何でって……。


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