【長編】唇に噛みついて
「あんたがいきなりあたしに電話してきたんでしょ?」
ボーっとしている須藤に答えると、須藤はゆっくりと口を開いた。
「そっ、か」
その声は掠れていて聞き取りにくい。
でもすごく優しい声だった。
すると須藤はゆっくりとあたしの頬に手を伸ばしてくる。
そしてうっすら笑みを浮かべた。
「……来てくれたんだ」
ドキ。
弱々しい笑顔にドキッとする。
って……。
何あたしはドキッとしてるのよ。
我に返ったあたしは須藤から離れて立ち上がった。
「お粥作ってあげるから、それまで大人しく寝てて」
そう言って背を向けてほんのり赤い頬を隠した。
そして早足でキッチンへ逃げ込む。
あたし……。
ホントに最近おかしい。
すっかり須藤のペースにのまれてる。
「はぁ……」
ため息が出てくる。
今はそんなの考えないようにしよう。
さっさと治ってもらって、さっさと帰ろう。
そう気合を入れて買い物袋から米を出した。