【長編】唇に噛みついて
須藤の真剣な表情に、サーッと体中の血の気が引く。
「ふっ、ふざけないで!」
あたしは精一杯の力で須藤の顔目掛けて腕を伸ばし抵抗を試みるけど、須藤はそれを軽く流す。
「お前何殴ろうとしてんだよ」
は!?
逆ギレェ!?
キレたいのはこっちだっつーの!
「あんた!風邪はどうしたのよ!」
キッと睨みながら怒鳴ると、須藤はグッと顔を近づけてくる。
「うーん?まだ辛いよ?」
「だったら大人しく寝てなさいよ」
そう言ってあたしは須藤の胸を押して起き上がろうとする。
すると意外にすんなり解放されて、あたしはベッドから立ち上がる。
「えー……行っちゃうの?」
その声に振り返ると、須藤が布団から顔を出して見つめてくる。
その顔はまた絵になって……。
あたしの顔に熱が集中する。
「行くに決まってるでしょ!お粥作ったから!ちゃんと食べなさいよ。治ったらあたし即帰るんだから」
あたしは暴れる心臓に戸惑いながらも、キッチンに向かいお粥をお椀によそる。
そして未だに赤い顔をしながらも、それを隠しながら須藤にお粥と薬とスポーツ飲料を乗せたおぼんを渡そうとする。
「ほら!」
そう言って須藤におぼんを差し出すけど……。
受け取ろうとしない。
…………。
「ちょっと。作ったんだから食べなさいよ」
そう言うと、須藤はニッと笑う。
「きーちゃん、俺ダルくて体動かないから。食べさしてよ」