【長編】唇に噛みついて
「はぁ!?」
「食わせろよ」
こいつは何を言ってんの!?
そんなの……。
「できる訳……ないじゃん」
睨みながら呟くと、須藤は一瞬ムッとしてゴロンとあたしに背を向けるように寝返りを打った。
「じゃ、食わない」
「は!?」
「聖菜が食わしてくんないならいらない」
こいつ……っ!
どこまでワガママなのよ!
いい加減ムカついてきて、あたしは拳を握る。
すると須藤はあたしの方に寝返りを打つ。
パチッと目と目が合うと、須藤は意地悪な笑みを浮かべる。
「いいの?きーちゃん」
「は?何がよ」
「早く帰りたいんでしょ?俺がお粥食べなかったら、治るのも遅くなるよねー。ま、俺的にはきーちゃんがいてくれて嬉しいけど」
そうだ。
ここは須藤の家。
しかも須藤は一人暮らし。
この状況は危険過ぎる。
身の危険は十分に分かってるし……。
さっさと安全な自分の家に帰りたい。
あたしは覚悟を決めて握っていた拳の力を強くした。
「わ、分かったわよ!食べさせればいいんでしょ!?食べさせれば!」
須藤を睨みながら大きな声で言うと、須藤は満足そうに微笑んだ。