【長編】唇に噛みついて


そう言って少し抵抗する品川を連れて去って行ってしまった。


シーン……。


まるで嵐が去って行ったように静かになった。
その静まり返った嫌な空気に、我に返ったあたし。


どうしよう……。
あたしも戻んなきゃ。


そう思って須藤に背を向けて歩き出そうとした瞬間。
突然須藤の腕が伸びて腕を掴まれた。


「え!?」


驚いて振り返ると、不機嫌そのものの顔をした須藤が友達に口を開いた。


「俺、ムカついたからもう帰るから」


それだけを言って、あたしの腕を掴んだまま歩き出す。
そして須藤が向かった先は、あたしがさっきまで座っていたテーブル席。
真弓も水谷も、品川もあたし達に視線を向けた。
すると品川を見下ろした須藤は、品川の座っている席の隣にあるあたしのバッグを取って口を開いた。


「こいつ返してもらいますんで」


え……?


一瞬ドキッとしつつ、すぐに歩き出す須藤の後をあたしはついていく。


居酒屋を出て、無言で歩き続ける須藤の顔をチラッと見上げると、眉間に皺を寄せて不機嫌そう。


何で……、そんなに怒ってるの?
何に……、そんなに怒ってるの?
須藤が分からない。
何を考えてるのか……。
でも……。


あたしは須藤の腕を振り解こうと思えなかった。


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