からっぽな街
「うん。なんか、いろんな人が居て、おもしろかったよ。」
「ふーん。良かったじゃん。」
「あ。そうそう、キャンプネームって、考えた?」
「キャンプネーム?」
「うん。キャンプの中で、呼び合うあだ名なんだって。」
「へー。あだ名。何にしよっかな。」
口に入れたハンバーグを咀嚼しながら、右上の見ながら考える、テツヤの、小難しい顔が好き。グラスの水を飲み込んだ。
「うーん。浮かばねえもんだな。ユウは、何にしたの?」
「えー。ゆん…。」
「ほお。ゆんねえ。なんか、いいね。」
「えー。良くないよ。だって、時間になっちゃってさ、適当に慌てて決めたんだよ。」
「ははは。」
「いろんなあだ名の人がいたよ。ロシアとか、ジョンとか、ピッポ、デイジー、セバスチャン、ちゃちゃとか。」
「へー。ほんと、色々なんだな。」
「うん。まあ、後から知って行ったんだけどね。あだ名っていうとさ、自分の名前から付けるっていうイメージしかないから、驚いちゃった。」
「ああ。俺もだよ。『テツ』とか、無難なやつしか浮かばなかった。」
「ふふふっ。なんか、私と似たようなもんじゃん。」
「うん。だって、それくらいしか、わかんねーよ。結局、そうなんだよな。」
そう言って、テツヤは笑った。けれども私は嫌だった。いろんな人から、テツヤが慣れ慣れしく、「テツ」と呼ばれることが。
親しみをもたれたら、たまったもんじゃない。こうして、向かい合って食事をしていいのは、私だけなのだ。そう思いながら、キャンプリーダーの説明会や、ハナの話をした。
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