からっぽな街
「だいじょうぶ?」
「あ。ごめんなさい。ぼうっとしちゃって。私、人見知りなんです。ほんとは、もっと、おしゃべりなんだけどな。」
「ふふふっ。いいよ。緊張しないで。俺も緊張しちゃうよ。」
落ち着いた感じで、グラスの水を飲むので、すごく羨ましく思った。初めて会った日は、不思議な感じだった。ずっと、昔から知っている感じの。家族に似た感じの。
このときのテツヤに、好きだとか、また会いたいだとか、そういう感情は、ちっとも生まれなかった。だって、それ程緊張していたのだから、それ以前の問題だった。
それから、自然に、何度もデートを重ね、気がついたときには、当たり前のように一緒にいるようになっていた。どちらからともなく、いつの間にか、付き合っているという形になっていた。 
なので、私たちには、はっきりとした記念日というものが、存在しない。気がついたときには、もう、一緒だった。
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