からっぽな街
「ぽくー!」
大げさなくらいに嬉しそうな声がすると思ったら、自分だった。
「ふぅぅううう。」
動く魚を怖気づくことなく、ぐっとつかみ、くっと、引っかかった針を外した。
じゃぽん。と、バケツに、ぽくの入った魚が入った。
「ゆんー!おで、できたー!」
「わあああ!良かったね。良かったね。」
「ぽく!すごーい!」
あの時の、ぽくの、嬉しそうな顔。褒められたときの、とろけそうな笑顔。バケツを持って、私たちの所まで来た。
「おでのが、一番大きいでしょ?」
バケツの魚を指差して、満足そうにぽくが言った。
「うん。すごいよ。すごい。」
野球帽の上から、みんなで頭を撫でた。無邪気に笑うぽくが、かわいくて仕方がなかった。
赤い屋根の小屋に戻るとき、重たいバケツを持ってくれたのは、ぽくだった。
恐らく、小学二年生の体が小さいぽくが持つには、重たすぎたし距離がありすぎた。
けれども、何度も休憩をしながら時間をかけて運んだ。汗をタラタラと垂らしながらも、誰かの手を借りることや、助けを請うことを、一度もしなかった。
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