からっぽな街
私は安心する。テツヤの穏やかさと、鈍さに。もう少し気を許せばいいのに。と、自分に言い聞かせる。
有りのままの自分でいたい。そう思いながらも、テツヤにずっと愛されていたいと深く願ってしまう。
有りのままでいたときに、もしもテツヤに受け入れられなかった時、私は、いったい、どうしたらいい。どうなってしまうのだろう。
それを恐れているからこそ、テツヤの過ごしやすいように、テツヤの喜ぶように、一生懸命に頑張っていればいいのだ。
頑張ってテツヤの前にいる自分は、本来の自分ではないから、衝撃は最小限で済む。誰だって、自分が一番かわいいはずだ。
人と、向かい合うことは、難しい。目を見て、話すことは、困難だ。私は、どうしたって、テツヤの側に居たいから、私は、そのために頑張る。
例え、山中さんに何を言われようとも、それが今の私自身であるのだから、仕方がないではないか。偽りの私ではない、真実の私だ。

玄関に鍵を挿して、家に入る。酔っ払ったテツヤは、私に覆い被さってくる。甘えるようなキスをされながら、風呂に入る暇もなく、ベッドへ急いだ。心の奥底に多くのしこりを抱えたまま、テツヤと、セックスをした。
好きだよ好きだよというテツヤの言葉が、何故だか苦しくて仕方がなかった。

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