かげろうの殺しかた
【三】
惣右衛門から加那を嫁にという話を聞かされた次の非番の日、
隼人は、
この国で最も広大な敷地を誇る結城家の屋敷内にある道場で
昼過ぎまで、例の上役、結城円士郎に剣の稽古につき合わされていた。
御三家の中でも結城家は、代々殿様の剣術指南役を務める武芸の家で、
何代か前の当主が鏡神流という実戦型剣術の道場を開き、城下の武士を門弟に抱えている。
もっとも、城下の剣術道場ならば他にもいくつかある。
隼人自身も鏡神流の門下ではなく、城下の宇喜多道場で開現流の小太刀術を学んだ身だ。
加那を諦めてから、隼人は想いを吹っ切るように剣術の修行に明け暮れた。
元々、剣との相性が良かったのか、
隼人は年を重ねるごとに腕を上げ、齢二十の時に開現流免許の伝書を受けた。
結城円士郎は隼人のその剣の腕を知ってからというもの、
ことあるごとに隼人を稽古につき合わせた。
さすがに剣術指南役の家柄だけあって、
この御曹司の上役は、十八の若さでありながら隼人以上に卓越した剣の腕を持っていた。
既に門下には師範、師範代以外に勝てる者がほとんどおらず、
他流派ならば、とうに皆伝か免許か、印可くらいは受けていてもおかしくない気がした。
それは努力や相性などと言う次元を凌駕した天分とも呼べる才能に思え、
同時に才能以外にも、鏡神流の他の門下生や隼人たちとは一つの決定的な違いを有しているように思われた。
剣を構える結城円士郎のギラギラした目は自信に溢れ、勝利と剣の向上に対する貪欲さがみなぎっていて──
この男はもしかすると……と、隼人はある想像をした。