かげろうの殺しかた
その日も、木刀を二刀に構えた円士郎の、
あたかも両手で打ち込んでくるかのような激烈な打ち込みを腕が痺れるほどに受け、昼過ぎになってようやく、汗だくになった稽古着を着替えて結城家を後にした。


お役に就いてからも暇さえあれば遊び回っているくせに、よくあれだけの剣が振るえる。

あれが天才というものか。

戦いそのものが好きで堪らないのだろう。
好きこそ物の上手なれとは良く言ったものだと思いながら、明るい陽光に照らされた白壁の塀に挟まれた道を歩く。


最初、隼人はこの御曹司の上役が大嫌いだった。

今の結城家の嫡男と言えば、幼い頃から評判の悪たれ坊主で、
成長してからはカブキ者を気取った格好で町の渡世人たちともつき合い、昼間から色町に入り浸っては派手な女遊びをすると、悪評の尽きない放蕩馬鹿息子として有名人。

実際に会ってみた印象は、世間の噂と何一つ違わなかった。

不遜で、奔放で、やたらと馴れ馴れしくて、
そして美丈夫で、

自分の思い通りにならないことなど何一つとしてないと信じ込んでいる人間だ。

こいつはきっと、生まれてからこれまで
手の届かないものを道の先に眺めて諦めるような思いは、一度たりとも
してこなかったのだろう。

そしてこれからも一生、そんな思いを知ることはないのだろう。

そう思ったら、昔の無邪気で愚かな自分を見ているようでどうしようもなく腹立たしくて、
苛々した。

しかし嫌いだからといって、己の立場が変わるわけでもない。

こいつが上役だと諦めるしかない。
どうしようもない。

そう思って、

結局この若い番頭のこともどうでもよくなった。


それでも嫌いではあった。
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