かげろうの殺しかた
二人は無言で歩き、幼い頃によく行った城下を流れる川へと向かった。

川沿いの道をしばらく歩いて、やがて背の低い草が広がる土手に並んで腰を下ろした。


「まだ、外を出歩くのは怖いのか」

隼人が尋ねると、加那は黙ってこくりと頷いた。


無頼の輩に襲われた事件以来、彼女はほとんど屋敷から一歩も出ずに過ごすようになったと聞かされていた。

最近になってようやく供を連れて外出できるようになったが、それでも一人にされると恐慌状態に陥ることがあるのだとも。


「このたびの縁談、申し訳ございませんでした」


加那はぽつりと謝った。

驚いて隼人が加那の顔を覗き込むと、加那は焦点が定まっていない虚ろな瞳で川面を眺めていた。


「隼人様には、ご迷惑だったでしょう。せっかくご出世なされましたのに、私のような傷物の女を押しつけられて」


背筋を冷たいものが走り抜けて、隼人は絶句した。


「いずれこの婚儀が知れ渡れば、隼人様は私のせいで家中の笑い者となりましょう。なんと恥知らずな女なのでしょうね私は。見ず知らずの輩に陵辱され、自害することもままならず、おめおめと生き長らえ、かつてお慕い申し上げた方の名までこのように貶めて」


「加那、俺は──」


隼人は何を言えば良いのか必死に考えを巡らせ、干上がった喉から何とか言葉を紡ごうとした。


加那が顔を動かして、隼人のほうを向き、


「あ」


彼の後ろに延びる道の先に目をやって、小さく声を上げた。






「逃げ水」





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