かげろうの殺しかた
糸遊と蜃
お前はまさしくかげろうのようだな、と師匠の宇喜多弥吾郎はよく口にしていた。

「相手の動きを見切ることに長けている」

刃をほとんど合わせることなく、敵の攻撃を見極めて最小の動きですいすいと剣をかわす隼人の試合を見ては、師匠はそのように言った。

「相手からしてみれば、当たったと思っても刀が掠りもしていない。まさに触れることのできぬ陽炎に斬りつけておるようだ」


それから師匠は、

「秋山よ、お前の剣術もそうだが──儂はどうも、お前自身も陽炎のように形というものがない気がしてならん。
いつもするすると周囲の者をかわして、誰もお前には触れることができずにいるのではないか? お前はちと、とらえどころが無さ過ぎる」

と、隼人自身についても述べた。


自分自身が触れることのできない陽炎か、と隼人はひそやかに苦笑する。

触れることのできぬものを眺めつづけていたら、いつの間にか自分も実体を無くしていたのだろうか。
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