かげろうの殺しかた
【一】
隼人にとっては全くもってどうでも良いことだったが
最近、城下では渡世人に関わり合いのある者が怪死する事件が続いていた。
渡世人同士の縄張り争いによるものだとかで、
連日城下では死人が出た。
ついには捜査を進めていた同心までが怪死し、上の方々が事態を重く見たのか
町奉行と共に、番方も助役として捜査に加わることになったらしい。
その役目に抜擢されたのが──と言うよりは、
春先の番頭への着任早々、城内で城代家老に喧嘩を売って一悶着起こしたあげく、その結果として役目を押しつけられたのが、問題児の結城円士郎だった。
この国で殿様の次に大きな発言権を持っていて、馬鹿息子の父親であり、殿様の剣術指南役であると同時に守り役でもある結城家現当主の晴蔵様は参勤で殿様にくっついて江戸に発った後で、
そうなるとこの国に残された者の中では一番の権力者となるのは城代家老の伊羽様になるわけだが、
要するに結城円士郎が喧嘩を吹っかけた相手というのがその御家老本人だった。
家中には庇いきれる力を持った者もいなかったし、
結城家の現当主は、息子の不始末は息子に腹を切らせるという方針の上での放任主義の父親だと皆心得ていたので、
わざわざ御家老に刃向かってまで結城家に見返りの望めない恩を売って馬鹿息子を庇ってやろうという殊勝な者もいなかった。
噂どおり結城円士郎が渡世人と繋がりがあるのならば、渡世人がらみの怪事件の捜査にはちょうど良かろうというのが上の判断だったようだ。