かげろうの殺しかた
そして、裏で何をしている者なのか……

遊水は世間話のように、円士郎が親しくしている一家と対立関係にあるヤクザの一家の話を始めた。

円士郎は怪死事件の犯人を、この敵対勢力連中だと考えているようだった。

この店は酒を銚子ではなくチロリのまま出していた。
遊水は垢抜けた手つきで円士郎や隼人の杯にチロリから酒を注ぎ、自分でも杯を傾けながら、次のように語った。

円士郎様が聞きたがっていた、その貸元に用心棒として雇われている蜃蛟の伝九郎ってェ凄腕の剣客についてですがね、何でも闇鴉って白波の一味らしいぜ。

二、三年前から用心棒をやっているらしいんだが、これが好き放題暴れる手のつけられねえ野郎のようで。

因縁つけて町人から金を巻き上げる、若い娘と見れば犯す、逆らえばバッサリ斬り捨てる、どこかの武家の御息女までさらってきて手籠めにしたとかで──


「おい、待て!」


隼人は話を遮って声を荒げた。


──今、こいつは何と言った?


喉がからからに干上がる。

一気に血の気が引いてゆくのがわかった。


「その武家の女が、手籠めにされたというのはいつの話だ?」


隼人が掠れた声で尋ねると、遊水は何に対しての笑いであるのか白い面にニヤニヤした表情を浮かべながら、


「確か、二年くらい前じゃなかったですかねェ」


と答えた。


「そう言えば、そんな噂が流れた時期があったな」

何も知らない御曹司の円士郎はのんきな相づちを打った。


二年くらい前。
二年前。

一致する。


引いていった血が、ごぽごぽと逆流してくるような感覚があった。


「その用心棒の男──」

「蜃蛟の伝九郎ですかい?」

「シンコウ?」

「蜃という、幻を吐く竜に似た化け物のことですよ。蜃蛟です。この白波の一味は皆、化け物の名を持つのが特徴で」

「その蜃蛟の伝九郎には──腕に刺青がないか?」


隼人は、あの日あの後
川の土手で加那から聞き出すことに成功した、彼女を襲ったという犯人の特徴を思い浮かべていた。
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