かげろうの殺しかた
陵辱され、ボロボロにされて屋敷に戻されたとき、
加那は、あまりの恐怖と絶望で自分を襲った者の顔も思い出せない有様だった。
事件の直後、散々犯人について尋ねた家の者にも何も語ることができず、
周囲もこれ以上辛い記憶を思い出させようとするのはやめようと気を遣って、
ゆえに何者の仕業かもわからずじまいとなっていたのだが、
辛かったら、無理に思い出さなくても良いが何か少しでも手がかりになるようなことを覚えてはいまいかと問うた隼人に、
加那は事件から二年が経過したあの日、ようやく、犯人に繋がる一つの手がかりを語ったのだった。
彼女は震える声で、
「腕に、刺青が」
と、告げたのだ。
「真っ黒なカラスの──足が三本ある──」
これは大きな特徴だと思う一方で、
町行く者の袖をしらみつぶしに捲って腕を確認するわけにもゆかぬし、二年も経過した今、その者が未だこの城下にいるかもわからない。
これだけの情報では何もわからないのではないか。
隼人はそう思っていたのだが──。
加那は、あまりの恐怖と絶望で自分を襲った者の顔も思い出せない有様だった。
事件の直後、散々犯人について尋ねた家の者にも何も語ることができず、
周囲もこれ以上辛い記憶を思い出させようとするのはやめようと気を遣って、
ゆえに何者の仕業かもわからずじまいとなっていたのだが、
辛かったら、無理に思い出さなくても良いが何か少しでも手がかりになるようなことを覚えてはいまいかと問うた隼人に、
加那は事件から二年が経過したあの日、ようやく、犯人に繋がる一つの手がかりを語ったのだった。
彼女は震える声で、
「腕に、刺青が」
と、告げたのだ。
「真っ黒なカラスの──足が三本ある──」
これは大きな特徴だと思う一方で、
町行く者の袖をしらみつぶしに捲って腕を確認するわけにもゆかぬし、二年も経過した今、その者が未だこの城下にいるかもわからない。
これだけの情報では何もわからないのではないか。
隼人はそう思っていたのだが──。