かげろうの殺しかた
血走った目でその用心棒の特徴を問いただした隼人に、遊水という男は待ちかまえていた獲物がかかったとばかりに「ございますぜ、ございますとも」と首肯した。

「こいつぁようくご存じで。
闇鴉の一味は、黒い八咫烏の彫り物を入れるのも特徴でしてね」

「やたがらす……?」

「ホラ、"足が三本あるカラス"ですよ。
蜃蛟の伝九郎の腕には、八咫烏があります」



その男だ。

隼人は確信した。
疑いようもなかった。

そいつが、
その男が、

加那を陵辱し、彼女の人生を滅茶苦茶にした。


蜃蛟の伝九郎。


その名前を頭に刻み込んだ。



怒りがぐるぐるととぐろを巻いた腹の底から
猛烈な憎悪と殺意とが噴き出でてくるのを感じた。

尋常ならざる隼人の様子に、円士郎がどうしたと声をかけ、
あたかも隼人に聞かせるためのようにぺらぺらと蜃蛟の伝九郎の情報を口にした混血の男は、

満足そうに、
一仕事終えたという様子で

酒の杯を傾けた。


隼人はまた、ふと

このヤクザ者のような男がうまいこと自分を操って、蜃蛟の伝九郎というその盗賊だか用心棒だかに殺意を抱くよう仕向けたのではないかという気がした。

しかしそれでも構うものかと思った。


こうして隼人にとってこれまで全く無関係だった事件は、にわかに関係のあるものになり、

隼人は、ちっとも興味のなかった事件の捜査に、蜃蛟の伝九郎という一点のみで積極的に関わることになった。

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