かげろうの殺しかた
しかし、漠然とではあってもそのように武士である己を捉え、信じてきた隼人が、


刀の声に引きずられたいと思った。


斬れ。斬れ。斬れ。加那を陵辱した蜃蛟の伝九郎という男を斬ってしまえ。

主命ではなく、隼人の腰からそう命ずる道具に従いたくなった。
腰にぶら下がってずしりとした重みと存在感を訴えかけてくる鋼の塊の魔力に、無性に操られたくなった。


ひょっとするとそれは、隼人に蜃蛟の伝九郎の話を嬉々として語ったあの遊水とかいう男の言の葉に操られるということなのかもしれなかった。

後になって聞けば、極道者の空気を漂わせていた混血の若者はまさに「操り屋」などという人心を操る裏家業を専門としていたのだそうだし、

更にもっと後になって判明した遊水なる男の正体を聞いてから鑑みれば──もはや彼が何の声に操られようとしていたのかさっぱりわからないが、

それでも制御できない意志がそこにはあった。

制御できないものに支配されるのを拒む気力がまるで失せてしまっていた。
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