かげろうの殺しかた
これまで自分の中にはなくて、今の自分に備わったもの。


隼人にもその正体はわかる気がした。
おそらく結城円士郎が誰よりも色濃く抱えていて、あの御曹司の剣才を支えているものと同じだと思った。


「勝負において、相手をかわし続けるのではなく、相手をねじ伏せ勝とうとする強い意志だ。それが今のお前にはある」

と、弥吾郎は言った。


それが何に根差して備わったものであるのかをこの師匠は知らぬ、と隼人は思う。

知れば、師範代を任せようなどとは決して口にするまいと。


一瞬、

自分が抱えている現在の境遇を、何もかも師匠にぶちまけて教えを仰ぎたい衝動に駆られた。

しかしすぐに、思い直した。

そんなことをして誰かの理解や言葉が欲しいわけではない。腹の中で煮えたぎっているこのふつふつとした感情は、むしろそのままにしておきたい。


斬れ、

斬れ、

斬れ。


今もそう囁き続ける声に抗って失うものは、声に従って失うものよりはるかに失ってはならぬものだ。

そうに違いない。


師匠、と隼人は弥吾郎に向かって言った。

「しかしその強い意志とやらは、どうやら自分には扱いが難しいようです」


狂わされそうになりますと、隼人は今の境遇をただそれだけの言葉で師匠に伝えてみた。
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