かげろうの殺しかた
一つ、流された後に戻って来ることのできる岸のような目印を見つけられた気がして、隼人は師匠の教えを大切に胸に刻み込んだ。


「師範代のお話、今しばしお待ちいただけますか」

隼人は弥吾郎にそう頼んで、道場を出た。


激流に呑まれた後で、もしも今示された岸に手をかけてきちんと陸地に立つことができたならば、その時こそ本当に、これまで持たなかったものが自分の中に据わっている。

たぶんきっと。


そう思いながら、霧のような細かい雨粒の中を傘を差して歩いた。
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