かげろうの殺しかた
死ぬかもしれないなと思った。

この声に引きずられてこのまま刀を振るい続けることは、わざわざ死ぬために勝てない相手に挑む真似だという気もしてきた。

いつでも己は、相手との間合いをはかってするすると逃げ続けてきた。
相手にぶつかっていくということを避けてきた。

そうして隼人は、陽炎のようにとらえどころのないものになってきたのだ。

斬れ、斬れ、斬れ。暴れ回るこの声は、そんな陽炎と化した己を幻ではないものに引き戻す。
隼人に実体を与える。

だから今、隼人はこうして斬られている。

かわしようのない怒りのせいで逃げられず、こんな勝負に身を投じ、殺されかかっている。


斬り合いを始めてからどれほどの時間が経過したのか、

笑みを絶やさぬまま蜃蛟の伝九郎が大きく間合いを詰め、これまでにない鋭さで横薙ぎの一撃が来た。

かろうじて避けた──とぎりぎり認識した一瞬で、その斬撃を避けるために大きく体勢を崩した隼人に向けて伝九郎が刀を返した。

狙いは初めからこの二撃目だった。

そう気づいた時には、左肩に深々と刀が打ち下ろされていた。


左腕に激痛が走る。


腕を落とされた──。


勝負を左右する決定的な一撃を決め、伝九郎が笑みを濃くしてとどめを刺すため刀を振りかぶり──
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