かげろうの殺しかた
動きが止まる。

伝九郎がハッとしたように表情を変えた。


ここは屋内だ。

天井がある。

長い獲物を振りかぶることはできない。


この達人は常に、屋内における長刀の制約を意識した動きをとり続けてきたが、勝敗が決したと思われたこの一瞬、わずかにその意識が外れ、


しかし戦い慣れた者であるが故に、すぐさま動きを止めたのだ。


チッと小さく舌打ちし、伝九郎が刀の構えを変えた。

敵が、この斬り合いの中でただ一度だけ見せた隙だった。

それは相手がそこらの剣士であれば問題にならないほどの、わずかな隙であったが、隼人は己に残された唯一の活路を見逃さなかった。


小太刀を鞘に納め、伝九郎の懐に飛び込み首筋を狙って居合い抜きのように斬りつける。

すぐさま反応した伝九郎が、受け止めるために刀を動かす。


刀と刀が合わさる直前で、

相手の刀をくぐらせるように、蛇の如く太刀筋をうねらせる。




己の中でゆらゆら揺れる陽炎を殺して、




隼人が繰り出した刃は、蜃蛟の伝九郎の首を斬り裂いた。
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