かげろうの殺しかた
驚きに大きく目を見開き、口元には変わらぬ笑いを浮かべたままで

どす黒い液体を吹き上げ、仰向けに倒れ込み、


蜃蛟の伝九郎が絶命した。



それを意識の端に確かに捉えながら、隼人もまた畳の上に倒れ伏した。



小太刀の短さを生かし、
居合い斬りの途中で太刀筋を変化させて相手の刀を擦り抜ける。

これを瞬速で行う剣が糸遊だった。

決まれば、相手はあたかも斬撃が刃を通り抜けて届いたかのような錯覚を起こすだろう。



伝九郎は己の身に何が起きたのかもわからぬまま逝ったに違いない。



これを一度目にしただけで見極めたあの娘は無事だろうか。

円士郎は彼女を助け出すことができただろうか。



行灯の橙の明かりに照らされた天井を見上げて、ぼんやりとそんなことを思った。



あのあどけない少女がどうか酷い目に遭っていないようにと願った。



斬り落とされた腕の止血をしなければまずいのは明かだが、もう体が動かなかった。

どくどくと命が流れ出ていくのを感じながら、隼人は静かに目を閉じた。
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