かげろうの殺しかた
「加那の婿殿として不足はないご身分と思うが──

いかがかな?」


なおも押し黙ったままの隼人の顔色を窺いながら、

惣右衛門は言葉を重ねた。


「隼人殿は、御内儀を亡くされて三年──」

「二年半でございます」

ここでようやく、隼人は口を開いて惣右衛門の言葉を訂正した。

「──二年半であったか。
しかしまだまだお若い身。
そろそろ後添えをもらっても良い頃であろう」

隼人の態度にしびれを切らした様子で、物頭は「どうかな?」と畳み掛けた。


は。と、隼人は頭を下げる。


「もとより、私に不服などある筈もございません。
このお話、お受け致します」


そうかそうかと胸を撫で下ろさんばかりに喜ぶ惣右衛門に頭を垂れたまま、

客間の畳に向かって隼人はひとりであざ笑った。
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