先生なんて言わせない
あたしの返事をあきらめたのか、佐野先生はあたしの手を引いて歩き出した。
「そういえば、テストぼろぼろだったんだって?
とっておきの罰考えてるから新学期楽しみにしとけよ~」
佐野先生はわざと明るい声を出してくれてるんだと思う。
その声と右手に伝わる温もりに安心して、涙がこぼれていた。
最近、涙腺が弱いと思う。
いろんなことがありすぎて、いっぱいいっぱいだ。
「…ふぅ…う…」
漏れる声に気づいた先生が振り返った。
「おまえ、さっきから変だぞ」
のどからしぼり出すような声を先生は出して、あたしを抱き寄せた。
あたしは先生の胸にしがみつき、大泣きを始めた。
ここは学校の近くで、周りには花火見物に来た人がたくさんいる。
もちろん中には同じ学校の人もたくさんいるはずだ。
冷静に考えれば、こんなことできるはずがない。
でも、この時のあたしはそんなことを考える余裕がなかった。
悲しいわけでもないのに、ただただ涙があふれて止まらなかった。