先生なんて言わせない

すっかり忘れてた。


キスシーンがあるんだよね。



…どうしよう。


うまくできる自信なんてないけど、委員長にはうなずいて見せる。



「頑張ってくれよ」と言って、他の人のところに行く委員長の背中を見ながら、

ため息をついた。



すると、誰かに後ろから小声で話しかけられた。



「大丈夫。キスシーンはフリでしておくから、あわてないで落ち着いて」


後ろを見ると、王子様の青い衣装を来た鷹井くんが立っていた。



「…いいの?」


鷹井くんの方に体を向けて小さな声でたずねた。



「嫌なんだろ?

俺も皆の前なんかで本気ですることないと思うし、フリか本当にかなんて客席からわかるわけないしな」



そっか。


委員長は面白がって本当にさせようとしてたけど、

確かにそんなことは客席からだと遠くてわからないよね。


心配事がひとつなくなって、ほおがゆるんだ。



やがてあたし達の出番となり、劇はとどこおりなく行われた。




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